広島大学大学院 先進理工系科学研究科(工学系)
社会基盤環境工学プログラム
環境保全工学研究室

Research

研究室

バイオリアクターによる排水からのレアメタル回収

レアアースを含むレアメタルは現代のテクノロジーに欠かせない資源であるが、天然に存在する量は限られている。レアメタルの需要は増加しており、レアメタルの回収およびリサイクル技術の開発が強く求められている。生物学的な回収プロセスは化学的なものと比べ、低エネルギーであることや副産物を出さないことなど、いくつか利点があることが知られている。多くの研究者たちは生物学的プロセスによるマンガン除去や、マンガン酸化物に重金属を吸着させる研究を行なってはいるが、レアメタルの生物学的除去・回収の有望なシステムは開発されていない。微生物反応によるマンガン酸化物を生物学的マンガン酸化物という。生物学的マンガン酸化物は多くのイオンに対して高い吸着性能を有することが知られている。マンガン酸化細菌はレアメタル吸着作用のあるマンガン酸化物を生成する微生物である。このマンガン酸化細菌が将来、レアメタルの除去・回収技術の鍵となる可能性がある。DHS (down-flow hanging sponge)リアクターはエアレーションが不要であり、低コストかつ低エネルギーで廃水を処理できるシステムである。我々の研究グループではDHSリアクターを用いてマンガン酸化細菌を培養し、マンガン酸化物を利用して微量に存在する自然や排水からレアメタルを回収する方法を提案している。培養したマンガン酸化細菌の代謝機能やマンガン酸化物を利用し、窒素循環を行う微生物に関する研究も行っている。

図:バイオリアクターによる排水からのレアメタル回収

主な発表論文

  • Linh Thi Thuy Cao, Hiroya Kodera, Kenichi Abe, Hiroyuki Imachi, Yoshiteru Aoi, Tomonori Kindaichi, Noriatsu Ozaki, Akiyoshi Ohashi*: Biological oxidation of Mn(II) coupled with nitrification for removal and recovery of minor metals by downflow hanging sponge reactor. Water Research, Vol. 68, No. 1, pp. 545-553. (2015 Jan.) https://doi.org/10.1016/j.watres.2014.10.002
  • Shunji Matsushita, Daisuke Komizo, Linh Thi Thuy Cao, Yoshiteru Aoi, Tomonori Kindaichi, Noriatsu Ozaki, Hiroyuki Imachi, Akiyoshi Ohashi*: Production of biogenic manganese oxides coupled with methane oxidation in a bioreactor for removing metals from wastewater. Water Research, Vol. 130, pp. 224-233. (2018 Mar.) https://doi.org/10.1016/j.watres.2017.11.063
  • Shuji Matsushita, Takafumi Hiroe, Hiromi Kambara, Ahmad Shoiful, Yoshiteru Aoi, Tomonori Kindaichi, Noriatsu Ozaki, Hiroyuki Imachi, Akiyoshi Ohashi*: Anti-bacterial effects of MnO2 on the enrichment of manganese-oxidizing bacteria in downflow hanging sponge reactors. Microbes and Environments, Vol. 35, ME20052. (2020 Sep.) https://doi.org/10.1264/jsme2.ME20052
  • Ha Thi Thu Dinh, Hiromi Kambara, Yoshiki Harada, Shuji Matsushita, Yoshiteru Aoi, Tomonori Kindaichi, Noriatsu Ozaki, Akiyoshi Ohashi*: Bioelectrical methane production with an ammonium oxidative reaction under the no organic substance condition. Microbes and Environments, Vol. 36, No. 2, ME21007. (2021 Jun.) https://doi.org/10.1264/jsme2.ME21007

ポリリン酸蓄積細菌(PAOs)を用いた排水からのリン回収

リンは全ての生命にとって重要な元素であり、我々の社会においては農業肥料として使用されている。持続可能なリン供給を達成するためには下水からのリン回収が必須となる。下水処理プロセスにおいてリン除去はリンを蓄積する微生物によって達成されている。本研究の目的は排水からの新規リン回収プロセスの開発である(Figure 1)。我々はリン蓄積細菌(PAOs)の生態に注目し新たなリン回収方法を考案した。本プロセスではPAOsのリン吸着、放出をコントロールする事でリンを高濃度濃縮液として回収する事を可能としている。現在、実下水を用いたリン回収リアクターを運転しており(Figure 2)、リン回収を高効率化するためのパラメータを調査している。更に、高塩分環境(海洋や工場廃水)からのリン資源回収を目的として海洋性PAOsの調査、培養を行っている。

図:バイオリアクターによる排水からのレアメタル回収

主な発表論文

  • Awaluddin Nurmiyanto, Hiroya Kodera, Tomonori Kindaichi, Noriatsu Ozaki, Yoshiteru Aoi, Akiyoshi Ohashi*: Dominant Candidatus Accumulibacter phosphatis enriched in response to phosphate concentrations in EBPR process. Microbes and Environments, Vol. 32, No. 3, pp. 260-267. (2017 Sep.) https://doi.org/10.1264/jsme2.ME17020
  • 小寺 博也, 間口 暢之, 金田一 智規, 尾崎 則篤, 大橋 晶良: 高塩分環境下に生息するポリリン酸蓄積細菌. 土木学会論文集G(環境), Vol. 69, No. 7, pp. III_523-III_530. (2013 Nov.) https://doi.org/10.2208/jscejer.69.III_523
  • Hiroya Kodera, Masashi Hatamoto, Kenichi Abe, Tomonori Kindaichi, Noriatsu Ozaki, Akiyoshi Ohashi*: Phosphate recovery as concentrated solution from treated wastewater by a PAO-enriched biofilm reactor. Water Research, Vol. 47, No. 6, pp. 2025-2032. (2013 Apr.) https://doi.org/10.1016/j.watres.2013.01.027

多環芳香族炭化水素類(PAHs)の環境動態

多環芳香族炭化水素類(PAHs)は2つ、もしくはそれ以上のベンゼン環が結合した有機物の総称であり、発ガン性や変異原性を持つものもある。PAHsは主に燃料の不完全燃焼から発生し、大気に放出された後に水環境へと流出する。本研究では水環境保護の観点から各ステージのPAHs含有量を測定していき、環境動態の把握に努める。

図:多環芳香族炭化水素類(PAHs)の環境動態

主な発表論文

  • Noriatsu Ozaki*, Akihiro Nakazato, Kazuki Nakashima, Tomonori Kindaichi, Akiyoshi Ohashi: Loading and removal of PAHs, fragrance compounds, triclosan and toxicity by composting process from sewage sludge. Science of the Total Environment. Vol. 605-606, pp. 860-866, (2017 Dec.)
  • https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2017.06.165
  • Noriatsu Ozaki*, Takahiro Yamauchi, Tomonori Kindaichi, Akiyoshi Ohashi: Stormwater inflow loading of polycyclic aromatic hydrocarbons into urban domestic wastewater treatment plant for separate sewer system. Water Science & Technology, Vol. 79, No. 7, pp. 1426-1436. (2019 Apr.) https://doi.org/10.2166/wst.2019.143
  • Noriatsu Ozaki*, Tomonori Kindaichi, Akiyoshi Ohashi: PAHs emission source analysis for air and water environments by isomer ratios -Comparison by modified Cohen’s d. Science of the Total Environment, Vol. 715, 136831. (2020 May) https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2020.136831

多環ムスク類およびトリクロサンの環境中の挙動

多環ムスクとトリクロサンはそれぞれ香料剤、抗菌剤として使用される化学物質であり、これらの物質は、洗浄用品やパーソナルケア用品に含まれている。使用量の大部分は廃水とともに流され、下水処理過程で生物分解や揮発、汚泥への吸着などにより除去される。しかし未処理分は水域環境に排出され、また下水汚泥のコンポスト利用により土壌環境にも排出される。本研究では下水の汚水管網からの漏出の可能性に着目し,生活排水に特有に含まれるこれらの化学物質をトレーサーとしてその汚染を雨水管において調査・解析している。それにより市街地ノンポイント汚染の新たな,隠れた発生源の可能性として捉えその究明を行う。本研究により,管路の劣化の下流水域への影響評価も可能となり,早期の劣化箇所特定技術という新しい維持管理技術の開発にもつながるものである。

図:多環ムスク類およびトリクロサンの環境中の挙動

主な発表論文

  • Noriatsu Ozaki*, Mai Nosaka, Hiroki Uemura, Tomonori Kindaichi, Akiyoshi Ohashi: Degradation and volatilization process of fragrance materials and triclosan in wastewater treatment plant – Comparison between field survey and laboratory experiment -. Environmental Technology & Innovation, Vol. 16, pp. 100438. (2019 Jul.) https://doi.org/10.1016/j.eti.2019.100438
  • Noriatsu Ozaki*, Tatsunori Tanaka, Tomonori Kindaichi, Akiyoshi Ohashi: Photodegradation of fragrance materials and triclosan in water: Direct photolysis and photosensitized degradation. Environmental Technology & Innovation, Vol. 23, 101766. (2021, Jul.) https://doi.org/10.1016/j.eti.2021.101766

嫌気性アンモニア酸化(アナモックス)による生物学的窒素除去

閉鎖性水域の富栄養化防止、硝酸性窒素による地下水汚染への対策の観点から効率的な窒素除去技術の確立が求められている。自然界には微生物よる窒素循環が存在している(下図左)。その中でも嫌気性アンモニア酸化(アナモックス)は窒素循環をショートカットする反応であり、従来の生物学的窒素除去法(硝化・脱窒法)と比べて高効率・省エネルギーな窒素除去法として注目されている。しかし、アナモックス反応を担うアナモックス細菌は増殖が遅く、培養することが難しいという課題がある。我々の研究室では、対象微生物を高濃度に保持できるカラム型の培養装置(下図右)を用いて、下水処理場の活性汚泥や広島湾の底泥を由来とするアナモックス細菌の培養に成功している。各アナモックス細菌の特徴を生かして、各種工業排水や畜産排水、閉鎖循環式陸上養殖の排水などへの適用を目指している。

図:嫌気性アンモニア酸化(アナモックス)による生物学的窒素除去

主な発表論文

  • Amin Mojiri, Kazuma Nishimoto, Takanori Awata, Yoshiteru Aoi, Noriatsu Ozaki, Akiyoshi Ohashi, Tomonori Kindaichi*: Effects of salts on the activity and growth of “Candidatus Scalindua sp.”, a marine anammox bacterium. Microbes and Environments, Vol. 33, No. 3, pp. 336-339. (2018 Sep.) https://doi.org/10.1264/jsme2.ME18068
  • Suguru Hosokawa, Kyohei Kuroda, Takashi Narihiro, Yoshiteru Aoi, Noriatsu Ozaki, Akiyoshi Ohashi, Tomonori Kindaichi*: Cometabolism of the superphylum Patescibacteria with anammox bacteria in a long-term freshwater anammox column reactor. Water, Vol. 13, No.2, 208. (2021 Jan.) https://doi.org/10.3390/w13020208
  • Takanori Awata, Yumiko Goto, Hisashi Kuratuska, Yoshiteru Aoi, Noriatsu Ozaki, Akiyoshi Ohashi, Tomonori Kindaichi*: Reactor performance and microbial community structure of single-stage partial nitritation anammox membrane bioreactors inoculated with Brocadia and Scalindua enrichment cultures. Biochemical Engineering Journal, Vol. 170, 107991. (2021 Mar.) https://doi.org/10.1016/j.bej.2021.107991
  • Jonathan A.C. Roques, Federico Micolucci, Suguru Hosokawa, Kristina Sundell, Tomonori Kindaichi*: Effects of recirculating aquaculture system wastewater on anammox performance and community structure. Processes, Vol. 9, No. 7, 1183. (2021 Jul.) https://doi.org/10.3390/pr9071183

都市下水処理場の活性汚泥に生息する微生物ダークマターの機能

下水処理場で生活排水の浄化に使われている活性汚泥は、多種多様な微生物から構成される人工複合微生物系である。活性汚泥を用いた排水処理は100年以上の実績があり、水環境の保全に貢献しているが、処理を担う細菌の85%以上は単離されていない(学名記載のない)細菌群であり、代謝機能が未解明であることから、宇宙を占める暗黒物質になぞらえて【微生物ダークマター】と呼ばれている。活性汚泥には、門レベルの系統分類群を構成するPatescibacteria又はCPR(Candidate Phyla Radiation)と呼ばれる細菌群が無視できない割合で存在している。本研究では培養を介さずに解析が可能なDNAの塩基配列に基づく系統解析、蛍光検出技術(下図)、微生物の高濃度保持が可能なバイオリアクターやこれまでの培養法とは一線を画する新規分離培養手法を適用する。

図:都市下水処理場の活性汚泥に生息する微生物ダークマターの機能

主な発表論文

  • Tomonori Kindaichi, Shiro Yamaoka, Ryohei Uehara, Noriatsu Ozaki, Akiyoshi Ohashi, Mads Albertsen, Per Halkjær Nielsen, Jeppe Lund Nielsen*: Phylogenetic diversity and ecophysiology of candidate phylum Saccharibacteria in activated sludge. FEMS Microbiology Ecology, Vol. 92, No. 6, pp. 1-11. (2016 Jun.) https://doi.org/10.1093/femsec/fiw078
  • Ryota Takenaka, Yoshiteru Aoi, Noriatsu Ozaki Akiyoshi Ohashi, Tomonori Kindaichi*. Specificities and efficiencies of primers targeting candidatus phylum Saccharibacteria in activated sludge. Materials, Vol. 11, No. 7, 1129. (2018 Jul.) https://doi.org/10.3390/ma11071129